②「在宅という特殊な環境だから起きる問題」の勉強
家には医療材料が無い!
突然ですが、
家で点滴を行う時、どこにどうやって吊るしますか?
また、持続皮下注が必要な患者にどのような機材を使用しますか?
これらの質問は、普段から在宅医療を行っている方からすると、即答できると思います。
しかし、病院で勤務されていた先生方が初めて在宅医療を開始した時には、このような小さなことも一つ一つ調べないといけないのです。
今まで行ってきた病院での診療とは異なり、十分な医療資源があるわけではありません。
そのため、足りないものは日常生活にあるものを活用したり、自宅でも管理できるような機械を使用したりします。
例えば、先ほどの質問であったように点滴加療を行う時では、家の中に病院のような点滴スタンドはありません。
もちろん購入することもできますが、購入となると約15000円程度(!)かかり、レンタルでも月に数千円程度はかかるのが一般的です。(ちなみに患者や家族に聞かれた時のために、こういった値段の事も知っておく必要があります。)
そのため高カロリー輸液を使用し、長時間の持続点滴を連日行う時には、レンタル等で用意しますが、短期的に抗生剤を数日使用する程度ではコストが割に合いません。
ですので、実際には針金ハンガーやS字フックといったものを使用し、カーテンレールなどに吊るします。
分かってしまえば、なんてこともないのですが、今まで経験したことがないと意外にそんなささいなこともあたふたとしてしまいます。
そして、普段使い慣れない機械たち…
また、在宅の現場では病院での機器とは違い、家で使いやすいように設計された機器たちも登場します。
病院で持続注射を行うとしたらこのようなシリンジポンプを点滴台につけて使用することが多いと思います。
もちろん在宅でも使用はできるのですが、シリンジポンプタイプの場合、詰め替えを頻回に行わなければならず、在宅に向かないときがあります。
そのため、ディスポーザブルタイプのもの(シュアヒューザー®など)や携帯可能な輸液ポンプ(CADD-Legacy®など)を使用します。
しかも、自分で対応しないといけない…
これらを患者の状態に応じて使い分け、そして機械の設定も勉強しておかなければなりません。
病院勤務の時のように、「○○○を5ml/時間で流しといて」と指示を出せば、看護師がシリンジポンプを用意し、薬液を詰めてくれるわけではありません。
また、アラームが鳴ったからと言って臨床工学技士がチェックしてくれるわけではありません。
在宅では、患者の目の前にいる医者が、場合によっては自分で薬剤を詰めたり、機械の設定をいじる必要があるのです。
このように医療を病院内でなく、居宅の中で行うためには、今まで知らなかったノウハウや周辺機器の勉強も大事になってくるのです。